油
春の日、空から油が降り注ぐ
油に塗れたこの世界では、あなたのことも抱きしめられない
路上の油溜まりを手で掬い、哀しげな目でそれを見つめている
はしゃぐ小学生の声
目をやると、助走をして地面に身を投げ、気持ちよさそうに滑っている
それを止めることは誰にも出来ない
人々が直接触れ合うことはもう出来ない
有史以来、文明を築き上げてきた人類は、油を介して触れ合うことしか出来ない
築き上げた文明も、油の前には無力なのである
考えてみると人間関係も同じなのだ
いくら親しくなろうとも、心と心が直接触れ合うことはない
もう立つこともできない
力なく横たわるあなたの物憂げな顔を見る
後ろで走り回る小学生
ん?小学生走り回ってるな
立てた
立てたし、あなたのことも抱きしめられた
何事もやる前から諦めてはいけないのだ
あなたを抱きしめる腕に力を込めた
散歩中のミーアキャットが雄叫びを上げる
私を祝福するかのように
「おめでとう!」
野太い声と拍手の音が聞こえる
なんだあのおじさん、気色悪い
こんな思いするなら、恋なんかしなきゃよかった