仏と呼ばれたウーパールーパー

薄暗い部屋の片隅に、水槽が1つ置かれている。中では、黒いウーパールーパーが気持ちよさそうに泳いでいる。 水槽の前に座り込み、それを眺めている男が1人。どれだけそうしているのだろうか。男の頭の上にはホコリが溜まっている。心なしか、ウーパールーパ…

春の日、空から油が降り注ぐ 油に塗れたこの世界では、あなたのことも抱きしめられない 路上の油溜まりを手で掬い、哀しげな目でそれを見つめている はしゃぐ小学生の声 目をやると、助走をして地面に身を投げ、気持ちよさそうに滑っている それを止めること…

初めは鼓膜を微かに震わせるその音を、私は気にも留めていなかった。 それよりも、試合に向けた精神統一に集中する。 しかし、気にも留めない、と思えば思うほど、壊れたラジオのように一定のリズムで繰り返すその音は、意識の奥深くへと介入してくるのであ…

籠城

「速報です。東京都の足立区で男が老婆を人質に建物に立てこもっており、現在警察が説得を試みているようです。現場に取材班が到着したようなので、中継を繋いでみましょう。現場の坂下さーん」 「はい、坂下です。現在こちらの建物で男が籠城をしています。…

異世界転生したらフェミニストだった件について③

初めはその女...いやマス子に対して特別な感情は何もなかった。しかし、集会に参加し、毎週のようにマス子と顔を合わせるうち、だんだんと私は彼女に惹かれていった。そんなものとは無縁であると思っていた私にも、いわゆる「恋」が訪れたということなのだろ…

異世界転生したらフェミニストだった件について②

どうやら自分がフェミニストになっているということに気が付いた私は、とりあえず現状を把握することにした。 まず気になったのが、思考と行動の乖離である。さきほどのツイッターの件から考えるに、少なくとも私の行動はフェミニストのそれになっているのは…

異世界転生したらフェミニストだった件について①

「うぅ...」 目が覚めると、眼前にはいつもと変わらない自分の部屋が広がっていた。目の奥に軽い鈍痛を覚えながら、私は体を起こす。そこで私はなにか違和感に気が付いた。しかし、部屋の中にこれといって違和感の正体足りえるものは見当たらない。 「気のせ…

ヨウムウ

良き好敵手であり、また親友でもあったフレンチがヨウムウにやられてしまった。 しかし、フレンチもただでやられたわけではないようだ。ヨウムウのものと思われる果汁が点々と奥まで続いている。この好機をやすやすと見逃すほど愚かではない。私と私とフレン…

変なすごろく

あけましておめでとうございます。 はやいもので2020年も終わりを告げ、なんとかウイルスが再度図に乗り始めたようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。 さて、私はと言えば、家で特にやることもなく、tinderで左スワイプしまくっては、「はっ」と言い小…

謎のサークル

「今年もそろそろ終わりか・・・」 クリスマスの盛り上がりを忘れたかのように静寂に包まれる街を、私はノスタルジックな気分で練り歩いていた。 家に帰ってレポートでも書くか、とため息とともに俯いたその時、視界の端で光るものを捕らえた。やけに気にな…