異世界転生したらフェミニストだった件について①
「うぅ...」
目が覚めると、眼前にはいつもと変わらない自分の部屋が広がっていた。目の奥に軽い鈍痛を覚えながら、私は体を起こす。そこで私はなにか違和感に気が付いた。しかし、部屋の中にこれといって違和感の正体足りえるものは見当たらない。
「気のせいかな」
そう呟き、私はふと自分の手を見下ろすと、そこには果たしてtwitterのツイート画面が表示されているスマートフォンが申し訳なさそうに鎮座しているではないか。
私は気味が悪くなって、とっさにそれを投げ捨ててしまった。明らかになにかがおかしい。そう思った私は、昨日の記憶を辿ってみることにした。
「おはよう、笛見!」
その声とともに、私は両肩に衝撃を感じた。
振り返ると、声の正体は友人である荷酢都であった。
「おはよう、女29」
私もあいさつを返す。
ちなみに私はマジもんの性差別者なので、相手の性別が女の場合には「女〇〇(〇〇には数字)」と呼んでいる。なぜなら本当のマジもんだからだ。
「今日の体育は水泳だよね!水着忘れてないでしょうね?」
「なめるなよ女。俺は男だから忘れものなんかしない。なぜなら俺は男だからだ」
というよりも、本当は昨日持ってきていて、学校に置いていたのだ。
「そうなのね!...てか時間やばい!遅刻遅刻~!!」
そういって女29は走り出した。遅刻など、取るに足らぬことを気にしおって。女の知能遅れが垣間見えるわ。
私は時間など気にもせずに、のっしのっしと歩みを進めた。
さて、ホームルームが終わると早速水泳である。各自持ってきた水着を持ち、更衣室へと足早に向かう。今日も自慢のバタ足を披露してやるか。
しかし、更衣室に到着し、徐に水泳バッグを開けた私の目に飛び込んできたのは、ズタズタにされた布切れであった。その「私の水着だったもの」を前に、私は犯人を推理すると同時に、これからの水泳をどうしようかと思考を巡らせた。女29にああ言った以上、見学するわけには行かぬのだ。体育の教師はあの男か。ならば、あの手で行こう。
着替えをすませた学友達は、プールサイドに横一列に並んでいく。私が最後に列に加わり、丁度そのタイミングでチャイムが授業の始まりを告げた。
はち切れんばかりの筋肉を携えた色黒の男が列に近づいてきた。右手には骨付き肉を持っている。男は肉を咀嚼しながら生徒を一瞥し、私を見て視線を止め、こう言った。
「なぜお前は服を着ているのだ」
無理もない。なぜなら私は服を着ているからだ。
だが、私がその質問を予想していなかったはずもなく、すぐさまこう言った。
「これは、水着です。」
男は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。私のようにトータルコーディネートの水着は見たこともないといった様子である。
「むぅ...まあ私も口臭対策のミンティアといって肉を食っているし、人のことは言えん。よし、授業を始めるぞ」
私は第一関門を突破することが出来た。しかし、次なる障壁はすぐに出現した。
そう、服が水を吸って思うように泳げないのだ。それにしても想像以上である。体は全く浮かばず、もがけばもがく程、体は水底へと引き寄せられる。さらに悪いことに、周囲には女しかいない。女は男に助けられるものであって、断じて男を助けることは許されない。そんなことをしようものなら、その女の体は四散し、このプールは血の海へと変貌を遂げること疑いない。
しかたない。私は自らの思慮不足を恥じ、これから予想される出来事を受け入れた。最後に見たのは、肉が濡れることを躊躇っている体育教師の姿である。
そうだ、私は水泳の授業中に死んだのだ。では、ここは天国か?いや、それにしてはリアリティがありすぎる。そういえば、先ほど何かをツイートしようとしていたな。
そう思い、私は先ほどぶん投げたスマホの画面を確認した。
画面にはこう書かれていた。
シスターマートの「お姉さん食堂」シリーズには呆れて言葉も出ません!!!!!信じられない!!!!女性がご飯を作るべきであるという開発者の考えが見える!!!!!辞任しろ!!!!!!!!
どうやら、私はフェミニストになってしまったようだ。それも、最近流行りの異世界転生というやつのようだ。
つづく
実際の人物や団体とは一切関係ありません。また、筆者の価値観を書いているものでもありません。