異世界転生したらフェミニストだった件について③

初めはその女...いやマス子に対して特別な感情は何もなかった。しかし、集会に参加し、毎週のようにマス子と顔を合わせるうち、だんだんと私は彼女に惹かれていった。そんなものとは無縁であると思っていた私にも、いわゆる「恋」が訪れたということなのだろう。

だが、ここで1つの疑問が生じるのだ。この「恋」と思われる挙動は、はたして性差別者の私に訪れたものなのか、はたまたフェミニストの行動としてなのか。そもそも、思想は行動についてくるものなのか、あるいは思想に基づいて行動が発生するのか。卵が先か鶏が先か、とはよく言ったものである。

 

さて、こんな終わらない話を続けていても仕方がない。

私が初めてマス子にあった日、すなわち初めて集会に参加した日のことを話そう。

 

 

 

 

 

集会の場所として指定されたのは、都内の貸し会議室であった。

電車を乗り継ぎ、指定された場所へ向かう最中、私はメールの送り主である佐藤と名乗る人物のツイッターアカウントを見ていた。どうやら佐藤は女のようである。本来なら「女37」と呼ぶところだが、この世界ではそうはいかない。

 

佐藤のツイートは共感できるできない以前に、要領を得ないものがほとんどであった。加えて、それに対して反論リプライを送る暇人に対しては、人格を否定することで相手を議論の土俵に上げないという大暴れっぷり。ディニオスかお前は、と言いたくなる。

これから行くのは、この女に群がる人間の集まりか、と思うとなんだか楽しみになってくる。

 

会場に着くと、そこでは既に多くの人たちが犇めいており、あちこちで議論が白熱している様子である。

私は右も左もわからず、とりあえず暇そうな人に話しかけようと思った。

「雌馬の胆液」なる飲み物を受け取り、(動物には適用外なのか?)と思いながらも、1人で「牡馬の脳汁」を飲んでいる女性に声をかけてみた。

 

「こんにちは、この集会にはよく来られるんですか?」

 

すると女はこう答えた。

 

「いえ、実は初めてなんです。...あれ?もしかして「性のカタストロフィ」さんじゃないですか?」

 

そんなわけないだろう...と言いたいところだが、その呼び名は私のツイッターアカウントの名前なのだ。まったく、赤面を通り越して紅蓮華面ものである。

 

「ははは、よくご存じで。あ、お名前聞いてもよろしいですか?」

 

「姓はパキ、名はマス子と申します。私、実は性カタさんに憧れてこの業界に入ったんです!会えてうれしいなあ。」

 

業界て。

 

「おお、私の活動でフェミニストが増えていることは嬉しい限りです。これからも、一緒に活動の輪を広げていきましょう」

 

ここでマイク越しに一人の男が声を上げた。

 

「えー、お集まり頂いた皆さん!定刻となりましたので、開会の挨拶をさせてください。まずは前方にあるスクリーンにご注目を」

 

私とマス子含め、会場の全員がスクリーンを刮目する。

 

「本日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます。会長の佐藤と申します。」

 

これは流石の私も驚いた。ツイッター上では女だと思っていた佐藤が、その実男だったのである。

佐藤は話を続けた。

 

「初めてこの集会にご参加いただく方もいるかと存じますので、毎回恒例ではありますが、私の方からまず集会の流れを説明いたします。この集会では、毎回スペシャルゲストの方をご招待し、初めにその方に今私が話しているような形にてお話をして頂きます。ちなみに今回のゲストは皆さんご存じ、「明治時代からお越し頂く平塚らいてう」さんです!これは飽くまで活動名で、ほんとにタイムスリップしてきた訳ではないですよー(笑)」

 

ここで会場がドッと沸く。なるほど、明治時代からお越し頂く平塚らいてうという名前で活動している人だったのか、ちょっとおもしろい。

 

それにしても不思議な点が1つある。佐藤の話し方は、非常にわかりやすく、またユーモアを交えることで場の空気を和らげており、カリスマ性を感じさせるものである。

まるで、ツイッター上の人物とは別人物のように。

その後も残りの佐藤の説明、ゲストの話、有志によるパネルディスカッションと続き、会は雑談タイムとなった。

集会の間、私はマス子と行動を共にしていた。女に称えられるのは、正直あまりいい気分はしなかったが、知らない人に話しかけられるのもまた困るのだ。

マス子は会の終盤で、さりげなくこう言った。

 

「私、佐藤さんのこと女性だと思ってました」

 

これは私も同意見である。

 

「実は私もそう思っていたんだ。ちょうど暇そうだから、声をかけてみようか」

 

そういい、私とマス子は佐藤の元へと向かった。

 

 

つづく

 

実際の人物や団体とは一切関係ありません。