謎のサークル
「今年もそろそろ終わりか・・・」
クリスマスの盛り上がりを忘れたかのように静寂に包まれる街を、私はノスタルジックな気分で練り歩いていた。
家に帰ってレポートでも書くか、とため息とともに俯いたその時、視界の端で光るものを捕らえた。やけに気になった私はそれを拾ってみる。それは小汚いブリキの箱であった。これから家で書こうとしてたのは、「箱開け学序論」のレポート。妙な運命を感じた私は、これは中身を見て持ち主に届けるため、と自らに言い聞かせてその箱を開けた。
中に入っていたのは、一枚の紙きれ。興奮した私は食い気味にそのメモを見た。メモにはこう書かれていた。
「ヘンナツイッターアカウントミツケタ @NISA46421857 」
モールス信号で書かれていた。幼少期にボーイスカウトに行かせてくれていた親に感謝。私は我を忘れて箱を懐にしまい込み、そそくさと帰路に就いた。
直噴の2.5リッター4気筒にモーターを組み合わせたハイブリッドユニット「THSII」のエンジン音が奏でるロックンロール。
愛車であるレクサスES300hを駐車場に停めた私は、自室に入りパソコンを起動させた。立ち上がるまでにかかる時間がもどかしい。もっと性能の良いものを買っておけばと後悔する。
パソコンでtwitterを開いた私は、例のアカウントを検索してみる。ヒットしたのがこちらのアカウント。
NISA?小額投資非課税制度のことか?じゃあ投資サークル?
そこまで考えが及んだ時点で、プロフィール文が目に飛び込んできた。
NISAというカレー店に通うサークルです!
特定のカレー屋に行くだけのサークル?何を言っているんだ?気になった私はツイートを遡って読んでいく。
悠久の時の流れ
~かくして宇宙は誕生したのであった~
なるほど。得られた情報は以下の通りである。
なかでも気になったツイートがこちらである。
本日は、NISAにて柔道フィリピン代表の方を接待しました!
— インカレサークルNISA(ニサ) (@NISA46421857) 2020年6月4日
自粛の影響で本調子ではない、と言いつつもその食べる量はまさに圧巻の一言!!我々も負けてられません!#インカレ #インドカレー #フィリピン #柔道 #ナン2枚ライス2杯 pic.twitter.com/GwUFWOyRRx
柔道フィリピン代表の方を接待?どういう繋がりでそうなっているのか。
このアカウントは一体何なのだろう。徹頭徹尾疑問符しか浮かんでこない。
夢中になって読み進めているうちに日付が変わってしまった。どうやら箱開け学序論のレポートの提出期限を過ぎてしまったようだ。落単は免れないか。
こうなったら徹底的に調べてみよう。必修単位の仇。私はインカレサークルNISAに取材交渉のDMを飛ばし、布団に入った。
翌朝
目を覚ましツイッターを確認すると、インカレサークルNISAから返信が来ていた。
ご連絡ありがとうございます。当サークルにご興味をお持ちいただき幸いです。
さて、取材に関してですがこちらとしては是非お願いしたい所存でございます。
つきましては、以下の日時、場所にお越し頂けますでしょうか。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
不都合がございましたらその旨をお伝えください。
ご返信をお待ちしております。
インカレサークルNISA
私は二つ返事で了承のDMを送った。
1月某日
指定されたのは横須賀から船で10分ほどに位置する無人島、猿島である。なにか意味があるのだろうか。私の学が浅いばかりに、まったく意図を汲み取れない。取材に応じてくれたのはこちらの米掠(こめかすめ)さん(仮名)。
ちなみにこの仮名は、本人たっての希望である。米を掠め取ったことはないが、なんとなく浮かんできた名前らしい。
私「本日はよろしくお願いいたします!」
米「よろしくお願いします」
私「まず聞きたいんですけど、寒くはないんですか?」
米「いや、寒いですね。今日は南半球からきたので服装を間違えました」
私「そうなんですね(笑) お忙しい中すみません!」
米「いえいえ。私どもとしても、当サークルにご興味を持っていただいて大変うれしく思っているので。」
私「では、さっそく質問させて頂きますね!そもそも何をするサークルなんですか?」
米「当サークルは東京都江戸川区にあるアジアンダイニングNISAというインドカレー店に通う大学生集団です。インカレはインドカレーの略と謳っていますが、実際多くの大学の学生が所属しています。」
私「そうなんですね。大学はやはり関東圏の大学が多いのですか?」
米「そうですね。関東圏の大学が多いですが、中には京都やオーストリアの大学生も所属していますよ」
私「なるほど、グローバル展開も視野に入れて活動されているんですね」
米「いや、そうではないですけど」
私「そのNISAというのはどういうお店なのですか?」
米「インドカレーを始めとするインド、ネパール料理を幅広くかつ低価格で提供しているお店です。ご存じかもしれませんが、あの辺りはインドからの移住者が多く、インドカレー店の激戦区ともいわれる地域です。そんな中で長く続いていることからも提供する料理の質の高さが窺えると思います。」
私「あ、聞いたことあります!なんでも荒川は日本のガンジス川と呼ばれているとか」
米「それは知らんけど」
私「カレーは辛くはないんですか?」
米「辛さは4段階から選べますので、辛いのが苦手な方でも大丈夫ですよ。ちなみにぼくのおすすめは4辛ですね。(おれはカレーを食べているぞ...!!)と生きてることを実感できるので。」
私「なるほど。では次にフィリピン代表…」
???「ちょっと待つんだぶんーー!!!」
私「そ、その声は…!」
私「世界最古の擬人化された彫刻といわれるドイツで発見された象牙の彫刻であるライオンマンを彷彿とさせるそのフォルム!そしてなによりその特徴的な語尾!間違いない。ここ数年で世のブロガーの9割を淘汰してきた正義を謳う悪の権化!!」
駄「駄文マンだぶん。駄文をツラツラと書き連ねる臭気および音を知覚したから馳せ参じた次第だぶん。臭くてかなわんわぁ。」
駄文マンとは!!!
近年存在を認められた、世に蔓延る駄文を徹底的に抹消する使命のもと動いている謎の生物。出生地はどこなのか?いつからいるのか?そもそも人間なのか?全ては謎に包まれている。駄文から漂う特別な匂いを感じることが出来、「臭くてかなわん」と言いながら現れる。UMAを研究する専門家たちに聞いた「最も会いたいUMAランキング」では堂々の第9位。ネットでは付け上がっている人間を粛清すべく地球の意思により誕生した生物という説が一般的である。
私「お前が現れたということは…!」
駄「今後一切の執筆活動から手を引いていただくんだぶん。さもなければこの燃料タンクを二つ備えることでM1に比べ発射回数が飛躍的に向上、発射燃料にはガソリンとタールを混合させたゲル状燃料が使用されているM2火炎放射器で貴様に近しい人間から順に灰になるまで燃やすんだぶん。貴様が執筆活動をやめるその時まで。人間の焼ける匂い、臭くてかなわんけど駄文より遥かにましだぶん。」
私「今後は執筆はおろか、会話すらも断片的な単語を尻文字で紡いでいくことをここに誓います」
こうして、世の中から駄文はひとつ減った。世界から駄文が無くなるその時まで!がんばれ駄文マン!負けるな駄文マン!
ただ、忘れないでくれ駄文マン。良文があるからこそ駄文が存在し、逆もまた然りなのだ。世の中と同じ構造なのだ。底辺を許す視野の広さがないと、生き辛いんだよ。