異世界転生したらフェミニストだった件について②

どうやら自分がフェミニストになっているということに気が付いた私は、とりあえず現状を把握することにした。

 

まず気になったのが、思考と行動の乖離である。さきほどのツイッターの件から考えるに、少なくとも私の行動はフェミニストのそれになっているのは間違いない。それに対し、私は相も変わらず前の世界と同じ考え、つまるところ性差別者のそれを有しているのだ。見た目はフェミニスト、頭脳は性差別者。どこかの少年探偵を彷彿とさせてくれる。

 

さて、次に把握すべきはこの世界での自分がどういう存在か、である。

手始めに母を呼ぼうとするが、どういうわけか声が出ないのだ。まるで、なにかの力がかかっているかのように。

これに関しては、さきほどの私の行動がフェミニストのそれになっているという考察と関係がありそうである。つまり、私が母に対して「女1」と呼ぶ行為は、フェミニストの行動として許されざるものであるということである。

しかたがない。今優先すべきはこの世界の現状を理解することであって、私のプライドは一旦ゴミ箱の傍らにでも置いておくほかない。なぜなら私にとっての優先事項は、自由に性差別を謳歌することであり、こんな状態でいると頭がおかしくなりそうだからだ。私は女1に対し、はらわたがねじり切れる思いをしながら「お母さん」と呼ぼうと試みた。

 

だが、これも同様に声に出すことは叶わなかった。試行錯誤の末、女1を記憶の片隅にかろうじて置いてあった彼女の名前で呼ぶことで、とうとう声に出すことが出来た。

 

「メアリー」

 

「あら、どうしたの笛見」

 

リビングから声が聞こえる。そこでリビングへと向かうと、そこには見慣れた女1の姿があった。

私は、不審に思われぬよう、言葉に気を付けながら質問を開始した。

 

 

 

 

 

 

女1から得た情報を整理すると、どうやら私のフェミニズムは近所でも有名なほどであるらしい。これはまさに、前の世界における私の性差別が入れ替わったような状況である。

他にさしたる違いは見つからず、つまるところこの世界は、私が性差別者からフェミニストになっただけのものであるらしい。

 

そこで私が立てた仮説は、以下の通りである。

 

 

有名な思考実験である「シュレディンガーの猫」をご存じだろうか。簡単にいうと、箱の中に入っている猫が生きているか死んでいるかは箱を開けるまで観測することが出来ず、その時その猫は生きながら死んでいる状態と考えるものである。

 

ここから生まれたのが「エヴェレットの多世界解釈」という考え方である。こちらも非常に簡単にいうと、さきほどの猫の例において、猫が生きている世界と死んでいる世界に分岐し、それぞれに相関した世界からしか観測が出来ない、ということになる。

 

おそらく、性差別者とフェミニストなど本質的に見ると大差ないのであろう。過去に私が性差別者となった決定的な出来事があった時、私は同時にフェミニストにもなり得るポテンシャルを秘めていたのではないだろうか。こうして性差別者の私、及びフェミニストの私がそれぞれ存在する世界に分岐し、なんらかのきっかけで入れ替わってしまったものと思われる。

私がフェミニストの思想に反した行動を制限されているのは、この世界に矛盾が生じないためであろう。

 

 

 

さて、そこまで考えた時点で一件のメールが届いた。

件名は「女性の地位を高めようの会 集会のご案内」である。

 

女性の地位を高めようの会 会員の皆様

 

お世話になっております。

女性の地位を高めようの会 会長の佐藤です。

 

さて、今週も女性の地位を高めるべく、会員の皆様で意見を交換する集会の日が近づいてまいりましたため、リマインダーと出欠の確認のため本メールを送付させて頂きました。

 

つきましては、出欠を今週金曜日の15時までにご回答のほど、よろしくお願い致します。

 

今回お招きするゲストは、明治時代からお越し頂く平塚らいてう様です。

日時や会費などにつきましては、添付のファイルをご参照頂ければと思います。

 

以上、よろしくお願い致します。

 

 

なるほど、この集会に参加すれば何かしらのヒントが得られそうである。

私は出席の意を伝え、ツイッターの世界へと舞い戻っていった。

 

 

つづく

 

実際の人物や団体とは一切関係ありません。