ヨウムウ
良き好敵手であり、また親友でもあったフレンチがヨウムウにやられてしまった。
しかし、フレンチもただでやられたわけではないようだ。ヨウムウのものと思われる果汁が点々と奥まで続いている。この好機をやすやすと見逃すほど愚かではない。私と私とフレンチの師である紅蓮華紅蓮華は、フレンチの死を悲しむ暇もなく何万歩より距離のある一歩を踏み出した。
思い返せばフレンチとの出会いは、決して良いものではなかった。今は亡き祖父の能力を生まれつき備えていた私は、運命のいたずらともいえようか、その能力故にヨウムウやバシーズら、通称「梁のリンゴ」たちとの闘いに巻き込まれていく。しかし、才能だけで粗削りであった能力に限界を感じた私は、本格的に修行を積むべく、師として仰いだのが現在の師である紅蓮華紅蓮華である。その時の兄弟子がフレンチであった。
フレンチは初め、粗削りであった私の能力を小馬鹿にしていたのだ。しかし、フレンチとともに一歩間違えると死に直結するような修行の日々を送るうちに、段々とお互いの力を認め合うようになり、やがて互いにとってそれぞれ唯一無二の存在となっていた。
そんなフレンチが帰らぬリンゴとなってしまったのである。当然私も慟哭を抑えるのに精一杯なのだが、私よりもフレンチとの付き合いが長い紅蓮華紅蓮華の方が思うところがあるに違いない。涙は見せないが私には理解(わかる)。
さて、そんなこんなしているうちに私たちは手負いのヨウムウのいる部屋にたどり着いた。
ヨウムウ「まっていたぞ」
私「てめえ、この野郎がフレンチを...!」
紅蓮華紅蓮華「落ち着いて、リョリョ。ヨウムウよりも床を見て」
私「心配ねえぜ。おれのヘタはクールだぜ。気づいているよ、床の足跡のことだろ。ここにはヨウムウしかいないのに、足跡が二つある。つまりバシーズのものだ!どこに隠れてやがる!てめえも姿を見せやがれ!!!」
紅蓮華紅蓮華「そう、足跡が二つしかない。この部屋には呼吸の気配が何十とあるのに!」
私「!?」
ヨウムウ「こいつか...なるほど。青りんごにしてこの冷静な判断力。洞察力。リョリョとフレンチを短期間にあれほどの戦士として育て上げられるわけだ...」
???「こ、これは大変ずら!」
次の日のテレビ
女子アナ「昨夜、友人の敵討ちに現れたリンゴに対して、ヨウムウ氏が青リンゴ蔑視ともとれる発言をし、批判の声が集まっています。会見でヨウムウ氏は、辞任はしないのかという質問に対し「辞任するという考えはありません。(中略)皆さんから邪魔だと言われれば、おっしゃるとおり、老害、生ごみになったのかもしれませんから、そしたら、掃いてもらえればいいのでは 」と発言し、これは火に油を注いだ結果となりました。」
コメンテーター1「もう森林的に青リンゴであるという理由で差別されてはいけない風潮なのに、それをわかっていないあたり老害という感じですよね。」
コメンテーター2「ショックというより、呆れました。こういう人がいるから青リンゴの社会進出が進んでいかないのかなと思っちゃいましたね」
コメンテーター3「私ね、これ聞いた時、もう同じ青森産として恥ずかしいなって。思いましたね。」・・・
お茶の間のいちご1「最近この話ばっかりだねえ。まったく、平和な世の中になったよ」
お茶の間のイチゴ2「こういう3みたいなこというやつは、その発言自体が産地差別になっているのがわからんのかね。赤いリンゴだとか、青いリンゴだとか、おいしければいいじゃない」
??「こんにちは、イチゴさん」
イチゴ2「ひっ、ドリアンさん…」
ドリアン「イチゴさん、今月の”目標”が未達なんだけど、どうしたの?…いや、それよりもロイヤリティが納められてないのはどういう了見?」
イチゴ2「し、しかしですね。ドリアンさんの言う通り、現在キイチゴを4割いれて運営しているのですが、キイチゴがたくさん入っている理事会は時間がかかるんです。キイチゴは競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです」
ドリアン「ほう、つまり”キイチゴなんか雇っているから、利益が上がらない。キイチゴなんて全員小鳥に啄まれて、その糞に乗ってその辺で性交でもしとけ、このファッキンイエローが”と?」
イチゴ2「へ?いや、そこまでは...」
ドリアン「いや、残念だ!なぜならばこの多様性を求められる社会で、あなたのように果物を品種だけで判断するようなイチゴがいるから!どうせこころの中では”なんだこのヒステリックうんこ臭野郎は。てめえみたいなくされうんこマンは、肥溜めに飛び込んで仲良く泳ぎながら窒息死してろ(笑)”とか思っているのだろおおお!信じられない!!もうSNSに投稿して拡散してやる!それはもう、すぐにでも拡散してやるんだからあああああ!!!!!」
イチゴ1「平和だねえ」
変なすごろく
あけましておめでとうございます。
はやいもので2020年も終わりを告げ、なんとかウイルスが再度図に乗り始めたようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、私はと言えば、家で特にやることもなく、tinderで左スワイプしまくっては、「はっ」と言い小馬鹿にする毎日。なんだか心にぽっかりと穴が開いてるような気がしてきた頃、私はすごろくに興味を持ちました。最近のすごろくは凝ったものが多いですね。
そんなこんなでamazonにてすごろくを見漁り、おやこれは、と思ったものを紹介したいと思います。それがこちら
なんだかかっこいい見た目ですよね。思わず買ってしまい、商品の到着を待つことに。
3週間後、届いたのがこちらです。
amazonの写真と少し違う気がしますが、あまり気になりませんでした。なぜなら1954年、ハラマン空軍基地のロケットスレッド有人実験でジョン・スタップ大佐がたった5秒で時速1017㎞まで加速し、体に50G近い重力がかかって一時的に失明状態に陥ったからです。まあそれは置いといて、さっそく開封しましょう。
はい、こんなのが出てきました。なにやら物騒です。
こいつはなにを言っているんだ。
よくわかりませんが、プレイングによっては指を失うようです。全然意味が分からないので、説明書を確認していきます。ただ、説明書がアトキンス物理化学くらい分厚かったので、以下に要約を記します。
・STOPを通ったらそこで止まり、続けて指示に従う。
・指カウンターは10スタート
・指をすべて失ったらスタートに戻る。
・プレイ中に用いてよい指の数は、残指数に従う。
・ゴールした際にゴール順×残指数の小ささで順位を決める(指がたくさん残ってる奴はチキン野郎だから)。
大体こんな感じでした。青丸に書いてある数だけ指を失うシステムのようです。あとは友達を集めて実際にやるだけなのですが、私には友達が指で数えるほどしかおらず(指を失えばこんな表現しなくて済みますね)、さらにビールみてえな名前のウイルスが暴君の如く大暴れしているので、それは出来ません。
ということで、人格を新たに作り出しました。
完全に人格ガチャ外れました。心なしか、右上に銅色に輝くRの文字が見えます。
面倒くさいので翁とでも呼びましょう。
では、この二人でやっていきたいと思います。
ちなみに順番を決めるのにひと悶着ありました。なんたって、全く同時に二つの人格でじゃんけんするのは無理ですからね。なんだかシュレディンガーの猫を彷彿とさせます。ただ、この話は本筋とは関係ないので、省きます。
最初は私です。サイコロを振ると6が出ました。幸先が良いですね。STOPに止まり、サイコロを振ってどの組に入るかを決めるようです。
再び6が出ました。さて私は何組で名を上げるのかな?
なんだこれ。
この後、翁は亀の如く重い足取りでSTOPにたどり着きましたが、その間私は4度大林組に就職したため、ヤクザ人生のスタートは同時に切りました。私は油麩組、翁は車麩組です。
と、ここらへんで少し違和感を覚えました。なんだかサイコロの出目が偏っている気がします。そういえばサイコロを用意したのは翁。疑いの暗雲が立ち込めた私は「君の名は。」みたいな感じで翁に尋ねました。直接聞くことは出来ませんからね。
翁からの返答がこちらです。
「♪~ε」
完全に黒だ。確信した私はサイコロに渾身のバックドロップを決め、サイコロを割ってみました(ついでにウォーズマンを呼んでスクリュードライバーもやってもらいました。その節はお世話になりました)。すると、中から重心をずらすために入れられたブートジョロキアが出るわ出るわ。翁のやつ、完全にやったな。ジョロキア、食ってやろうか。と考えていると、遠くからなにやら声が聞こえました。
なんだか怖い人がやってきました。
???「サマがばれたらその場で指詰めるんが極道っちゅうもんや」
なんと翁は極道だったようです。くわばらくわばら。
目が覚めると私は病院にいました。今日は何日だろうと思い、スマホを触ろうとしますが、私の手は空を切りました。
こうして私は指をいくらか失ったわけです。ウイルスが流行っていなければ、すごろくにはまっていなければ、いかさまを見て見ぬふりしておけば。後悔することは山積しています。
ひとつだけ良い点を挙げるとすれば、それは友達の数が指の数を上回り、「友達を指で数えきれなくなった」ことですね。まあそんなとこです。がんばりましょうね。
謎のサークル
「今年もそろそろ終わりか・・・」
クリスマスの盛り上がりを忘れたかのように静寂に包まれる街を、私はノスタルジックな気分で練り歩いていた。
家に帰ってレポートでも書くか、とため息とともに俯いたその時、視界の端で光るものを捕らえた。やけに気になった私はそれを拾ってみる。それは小汚いブリキの箱であった。これから家で書こうとしてたのは、「箱開け学序論」のレポート。妙な運命を感じた私は、これは中身を見て持ち主に届けるため、と自らに言い聞かせてその箱を開けた。
中に入っていたのは、一枚の紙きれ。興奮した私は食い気味にそのメモを見た。メモにはこう書かれていた。
「ヘンナツイッターアカウントミツケタ @NISA46421857 」
モールス信号で書かれていた。幼少期にボーイスカウトに行かせてくれていた親に感謝。私は我を忘れて箱を懐にしまい込み、そそくさと帰路に就いた。
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